大学共同研究

炉を冷却できる熱音響デバイスの開発

発端

はるか昔から、材料を加熱する加熱炉としてレンガ製の窯が知られており、レンガ製の窯を使って陶器を焼くことは広く行われております。自然の力と職人技が生きた伝統ある窯はもちろんのこと、産業革命等での進化を経てハイテクを駆使するに至った近代的な加熱炉であっても、加熱炉が大量のエネルギーを消費するエネルギー多消費型設備であることに変わりはありません。

2011年に起きた東日本大震災後の電力不足の影響を受け、お客様から、エネルギー多消費型設備を運用することのお悩みをお聞きする機会が顕著に増えました。お客様の悩みをお聞きするうちに、高温素材産業の加熱エネルギーの省エネ化に少しでも貢献したいとの思いが日増しに大きくなってまいりました。

また、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出量を減らすため、近年、脱炭素の要請が高まっております。電気炉等を用いる高温素材産業においても、加熱エネルギーの省エネ化を通じた脱炭素化が求められております。

近代的な高温加熱炉においては、様々な革新的断熱手法を駆使した様々な省エネ化が図られ、成果を上げております(NEDOプロジェクト・リジェネイティブバーナー開発等)。また、高温加熱炉においては、断熱材の高断熱化による省エネ化を介した脱炭素化だけでなく、太陽光発電などの再生可能エネルギーを用いることを介した脱炭素化も進められております。

しかしながら、最新型の加熱炉であっても、依然としてエネルギー多消費型設備であることに変わりはなく、より大幅な脱炭素化の要請に応えるにはさらなる改善が必要です。この要請に応えるに際してネックとなるのは、これまで上市されてきた高温加熱炉と同等のコストパフォーマンスを維持しつつ、脱炭素化にかける費用をできるだけ少なく抑え、かけた費用に見合う脱炭素効果を獲得することです。実際に、取引先様から、脱炭素化への要請に応えることへのお悩みを耳にすることも多くあります。そこで、当社は、平成24年(2012年)頃から高温素材産業で費用対効果に優れた省エネ化を行えないか?とのアイデアを抱くに至りました。

東京農工大学:上田先生との出会い

電気炉の高断熱化を実現するにあたり、まず壁に当たったのは、高断熱化すると炉の冷却に時間がかかってしまうことです。高断熱化した電気炉では、炉の外側に熱を逃がさないことによって省エネ化を達成します。しかし、高断熱化した電気炉では、炉の外側に熱を逃がさないため、炉の冷却にかかる時間も増えてしまいます。これまで上市されてきた高温加熱炉と同等の性能を実現しつつ、省エネ性能をよりよくするためには、高断熱化だけでなく、「あとひと手間」の何かが必要です。

当社は、「従来冷却手法、降温手法が少なからず断熱・加熱の革新性を減じているのでは?」との見立ての下、「コストパフォーマンス達成の鍵は、冷却・降温・排熱にあり」との仮説を立てました。革新的断熱、加熱の足を引っ張らない排熱・冷却器の開発には、大学で研究されている最新の知見が不可欠と考え、熱音響現象・理論の活用可否を伺うべく、平成28年(2016年)に国立大学法人東京農工大学 上田教授(当時准教授)の下に赴きました。

大学に赴いたのには、国のため、子供たちのために温室効果ガス排出量を減らすという動機の他、電力産業の川下にたずさわる者として、高温利用産業・エネルギー多消費産業の未来を見たいとの思いがありました。高温処理におけるエネルギーのロスを減らし、必要最小限のエネルギー消費のみで高温処理品、高温処理を要する物質、高温処理を行った製品等を供給できるようになれば、エネルギー消費量を大幅に減らし、高温処理産業をグリーンな産業へと大転換することができます。そして、これらの実現には、高温処理を行う設備におけるエネルギー効率の向上が重要であり、上田先生と産学共同研究を進めることがそのキーポイントの一つとなるのではないかと考えました。そして、その実現可能性を自ら覗いてみようと思いました。

上田先生との複数回のディスカッションを通じ、熱音響現象・理論を活用すれば加熱エネルギーの省エネに貢献でき得るとの仮説が確信に変わり、上田先生との産学共同研究をスタートしました。

熱音響現象

熱音響現象は、熱エネルギーを音エネルギーに、あるいは、音エネルギーを熱エネルギーに直接変換する現象です。熱音響現象による変換は、電気やピストンを通した変換ではないため、高いエネルギー効率で熱と音とを相互変換することができます。これにより、省エネルギーを達成可能です。

この現象は、液体ヘリウムを入れた容器の内部を探る研究で偶然発見されました。容器の内部に温度計を取付けた細い管を通したところ、管が振動し、音波を発し始めたのです。その後の調査により、この音波は、極低温の液体ヘリウムと室温の外部との間の温度差が細い管の両端にできたことによって発生した音波であることがわかりました。

細い管の両端に生じた温度差が音波を発生させるこの振動現象は、熱音響現象と名付けられ、主に低温領域での応用が研究されてきました。現在までに、熱音響現象を用いて、マイナス150℃の低温を作る冷凍機や、天然ガスを液化させる冷却機などを構成する研究開発が行われています。

大学に赴いて上田先生とディスカッションを重ねるうちに、複雑な機械や繊細な電子部品を用いず、細い管だけで発生させることができる熱音響現象を、氷点下の低温領域ではなく加熱炉内部の高温領域に応用し、コストパフォーマンスと費用対効果とに優れた加熱炉の冷却技術、熱音響デバイスを実現できるとの手応えを得ました。

炉を冷却できる熱音響デバイスの開発

熱音響デバイスの開発を目指す産学共同研究では、まず、上田先生より、熱音響現象の理論と、熱音響現象を用いて熱音響デバイスを実現する可能性とについて噛み砕いた説明を頂きました。そして、上田先生や研究室の方々による取り組みの下で、熱音響デバイスに関する数値計算、検証実験、プロトタイプモデル製作、能力検証へと進んでいく事ができました。

産学共同研究を進めるうちに、熱音響デバイスが、当初の目的であったコストパフォーマンスと費用対効果との改善に役立つだけでなく、高温炉に水を入れることによる爆発のリスクを軽減することも可能とする優れたデバイスであることがわかりました。

現在は、ステンレス管の内部に熱音響現象を発生させる細工を施した安価な装置で、約1kWの熱を高温炉の外部へ運び出す事に成功しています。

当社は、産学共同研究で得た成果で特許を取得しており(特許第6807087号)、この特許は、米国・ドイツへも申請中です。この特許技術により、高断熱化された炉の内部に水を入れることなく、また、炉の扉を開け閉めすることなく、安価かつ省エネルギーで炉内温度を制御することができます。また、熱音響デバイスは、シンプルな構造のデバイスなので、優れた耐用性を実現できます。

また、当社は、この成果について、2021年7月に、一般社団法人日本機械学会動力エネルギー部門が主催する動力エネルギーシンポジウム2021にて学会発表を行いました。

将来は、当社の既存事業である電力制御と排熱制御に加えて、高温熱源への電力制御(炉に熱を入れる入熱ソースの制御)とは対を成す、熱音響デバイスを用いた高温熱源からの排熱制御(炉から熱を出す排熱シンクの制御)に力を注いで行ければと考えています。音波を利用して炉内の温度を制御することにより、いままでより少ないエネルギーで加熱処理を行う省エネ化を達成するとともに、炉内の温度制御の精度をよりいっそう高められるものと考えています。


また、さらなる将来、お客様の装置に相応しい、電源、ヒーター、熱音響デバイスをセットにした省エネ高温処理システムを提供できれば・・・と思い描いています。

高温・熱を駆使して素材、製品を創り出している方々、革新的省エネに取り組んでおられる方々とのオープンなイノベーションを模索しています。

熱音響ヒートパイプの活用に、ご興味のある方のご連絡をお待ちしています。

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