熱音響ヒートパイプ(TAHP)の開発
背景
加熱炉は、様々な工業プロセスを支える重要な設備ですが、大量のエネルギーを消費します。近年、地球温暖化対策として、CO2排出量の削減が求められています。日本国内では、工業用加熱炉から年間1.5億トンのCO2が排出されています。
加熱炉の断熱性を向上させれば、炉の外側に熱を逃がさないことによって加熱エネルギーの省エネ化を進めることができますが、炉の外側に熱を逃がさないため、炉の冷却にかかる時間も増えてしまいます。
そのため、これまで上市されてきた高温加熱炉と同等の性能を実現しつつ、省エネ性能をよりよくするために、高断熱化に加えた「あとひと手間」が必要です。
熱音響ヒートパイプ
(ThermoAcoustic Heat Pipe: TAHP)
当社は、東京農工大の上田先生との産学共同研究プロジェクトにより、高断熱化に加える「あとひと手間」として、熱音響現象を利用する熱音響ヒートパイプ(ThermoAcoustic Heat Pipe: TAHP)の開発を進めております。
熱音響ヒートパイプは、複雑な機械や繊細な電子部品を用いず、細い管だけで発生させることができる熱音響現象を、氷点下の低温領域ではなく加熱炉内部の高温領域に応用するものです。
これは、同じく熱音響現象を応用して温度を下げる技術である熱音響冷凍機とは、全く異なるコンセプトに基づく技術です。
従来の熱音響冷凍機では、熱音響現象によって冷凍機を動かして炉を「冷却」します。そのため、まず、熱音響現象によって温度差をガスの動き(仕事)に変え、さらに、この動き(仕事)によって冷凍機を動かすというロスを伴う2段階のステップが必要でした。
一方、当社の熱音響ヒートパイプは、熱音響現象を直接利用して炉内の熱を「排出」することで、このステップを1段階にまとめてエネルギーロスを抑えます。
ここれにより、当社は、ステンレス管の内部に熱音響現象を発生させる細工を施した安価な装置で、約1kWの熱を高温炉の外部へ運び出す事に成功いたしました。
また、当社は、産学共同研究で得た成果で特許を取得し(特許第6807087号)、この特許を米国・ドイツ等の海外へも申請しております。
熱音響ヒートパイプのさらなる改良
ところで、これまで上市されてきた高温加熱炉と同等の性能を実現しつつ、省エネ性能をよりよくするためには、機能面でも性能面でも、熱音響ヒートパイプをさらに改良することが肝要です。
例えば、焼鈍し(アニーリング)に用いられる加熱炉では、炉内の温度を下げたいときにだけ炉内の熱を排出し、それ以外のタイミングでは、できるだけ炉内に熱をとどめるようにする機能が必要となります。
そこで、当社は、産学共同研究を通じて、熱音響ヒートパイプの改良を日夜進めております。
機能面の改良として、産学共同研究では、ステンレス管内部に封入したガスを制御することで、熱を排出するペースをコントロールする機能を実現しました。
また、性能面の改良として、炉から熱を取り込む熱交換器、熱音響現象を起こす蓄熱器、ステンレス管の形状に注目し、さらなる性能向上を目指した改良が行われました。
当社は、産学共同研究で得たこれらの新たな成果により、特許を複数取得しました(特許第7194402号、特許第7270144号、特許第7194401号、特許第7315910号)。これらの特許技術により、高断熱化された炉の内部に水を入れることなく、また、炉の扉を開け閉めしたり、熱音響ヒートパイプを動かしたりすることなく、安価かつ省エネルギーで炉内温度と熱の排出ペースとを制御することができます。これらの新たな機能や性能向上を実現する構造もまた、熱音響ヒートパイプ本体と同様のシンプルな構造であり、優れた耐用性を実現できます。
さらに、当社は、2024年6月に、国際スターリング協会が主催する第20回国際スターリングエンジン会議(20th ISEC、ナポリ)にて、この産学共同研究に関する学会発表を行いました。
熱音響発電:ゼロエミッションへ向けて
当社は、将来のビジョンとして、お客様の装置に相応しい、電源、ヒーター、熱音響ヒートパイプをセットにした省エネ高温処理システムを提供したいと考えております。
このシステムは、熱音響ヒートパイプによる熱の排出によりヒーターで消費される二酸化炭素排出量を減らすだけでなく、熱音響ヒートパイプが自ら消費する電力を発電して熱音響ヒートパイプそのもの二酸化炭素排出量をゼロに近づけます。
当社は、この省エネ高温処理システムを通して、加熱炉に携わるすべての人たちにとって喫緊の課題である、ゼロエミッションの達成に貢献します。
熱音響発電:
さらなる研究開発とパートナーの募集
当社は、エネルギー効率や経済性のシミュレーションも計画しております。
シミュレーションを通して、熱音響ヒートパイプを含めた省エネ高温処理システム全体の性能を明らかにしていくとともに、さらなる改良を進めます。
また、当社は、引き続き、高温・熱を駆使して素材、製品を創り出している方々、革新的省エネに取り組んでおられる方々とのオープンなイノベーションを模索しています。
熱音響ヒートパイプの活用に、ご興味のある方のご連絡をお待ちしています。
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