第1回 熱音響現象とは(前編)
「時代を見据えたオーダーメイド電機設計・機器」の昭電工業です。
3か月間半の集中連載となる本コラムでは、当社が東京農工大学上田研究室と共同研究中の次世代の工業炉用冷却システム、サーモアコースティック炉冷却システムにまつわる様々なお話を紹介していきます。
このシステムは、熱から音波を生み出す「熱音響」(サーモアコースティック)と呼ばれる現象を利用することで、エネルギー効率に優れた省エネ冷却を実現し、二酸化炭素排出量の削減(カーボンフリー)に貢献します。
第1回となる今回は、サーモアコースティック炉冷却システムを支える最も重要な科学法則である、「熱音響現象」について紹介させていただきます。
多くの方々にとって耳慣れない「熱音響現象」とは、どんな現象なのでしょうか。
ひと言で表すならば、熱音響現象は、熱が音を生み、音が熱を動かす現象です。
熱音響現象は、私たちと全く無縁の現象ではありません。
私たちの身近でも時折起こる気象現象を通じて誰もが一度や二度は経験している現象なのです。
その気象現象とは、皆さんご存じの雷鳴です。
雷雲の中では、電荷がプラス・マイナスのいずれかに偏った部分が形成されています。この偏りが大きくなると、偏った部分とその周囲との空間に形成される電界が大気の絶縁破壊電界強度(※1)を超え、稲光と呼ばれる放電となります。
稲光が生じると、稲光によって大気中を流れた電流が電気ヒーターのように働き、稲光とその周囲の大気が急激に熱せられます。
このとき、急激に熱せられた大気は、雷雲の中の冷たい大気に取り囲まれた不安定な状態になっています。まわりの大気は、熱せられた大気と冷たい大気との間の温度差を何とか解消して、温度差が無い安定した状態を取り戻そうとします。
比較的小さな温度差であれば、暖かい空気が上へ行き、冷たい空気が下へ行く対流現象だけで温度差を解消し、安定した状態を取り戻せます。しかし、稲光によって急激に生じた大きな温度差は、対流だけではすぐに解消できません。
では、どのように急激に生じた大きな温度差を解消するのでしょうか。
※1 絶縁破壊電界強度:絶縁体に強い電界を与えると、絶縁体の電子が強い電界によって原子核から解き放たれて自由電子のように振る舞います。これにより、絶縁体の性質が自由電子を持つ導電体のように変化してしまいます。これを絶縁破壊と言い、絶縁破壊が起こる寸前の電界強度を絶縁破壊電界強度と言います。
参考文献:「熱音響現象 ―熱と音と流れの相互作用―」、杉本信正、機械の研究、第60巻第4号、2008